fc2ブログ

-
著者が相当昔に考えた「芸術とエントロピー増大の関係」を、最近また考えることがあります。抽象作品の充実度を左右する大きい要素だからです。エントロピーは熱力学の専門用語で、全く畑の違う社会学の分析にもよく出てきて、応用がきく概念です。

たとえば家の敷地で造園が完成した時は、樹木や花がきれいに並んで、この状態のエントロピーは小さい。手入れしないで何年も放置すると、全体が雑草に埋もれて古墳みたいな緑のかたまりに。この状態ではエントロピーが増大しています。その意味は秩序の崩壊です。

画面に色の丸や四角を置く抽象画の作り方として、作為ありありに秩序をもって描き込むと、エントロピーが小さい絵になります。さらに描き加え続けると、しだいに一様に均質に見えてきて、エントロピーが増大して大きくなっていきます。無秩序なら最大。

著者の体験では、抽象画のエントロピーの小さすぎも大きすぎも、それぞれ別の理由で独自性が出にくい。ジャストなエントロピー状態を画家が探すことになると考えます。そして実際の制作アドバイスを通じて、問題が深刻なのはエントロピーが大きすぎる場合です。

著者にもあった失敗ですが、画面に色々な物を描き続けたり、すき間を埋めて塗り続けると、全体がのっぺり一様な図になり、画面内のドラマ性が逆に消えます。情感や緊張が消えて、雑草に覆われた庭みたいな。抑揚のない大騒音みたいになり、むしろ主張が伝わらない。

ライスの横にカレーソースを置いた初期状態を、スプーンで混ぜるとします。混ぜ返しすぎると全体が一様なピラフ状になり、凡俗で刺激が乏しい。この傾向の作品を自力で修正するのは困難でした。行き詰まっていると判定し、引き返す作業になりますが、これがまた壁なのです。
関連記事
スポンサーサイト



現代美術はインチキの詐欺ってホント?
Posted by現代美術はインチキの詐欺ってホント?