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長谷川町子の4コマ漫画『いじわるばあさん』に、主人公がデパートで絵画鑑賞する場面がありました。将来性が確実な絵に期待して買うわけですが、それから毎日画家の家に電話をかけるのです。「今日もまだお元気ですか」と。

「また」と言わず「まだ」と言うイジワルな主人公は、絵の値上がりが楽しみで、作者が亡くなる日を待っている筋書きです。高騰したら売り抜ける投機目的で絵を買っており、日本のアート市場の素顔をおもしろおかしく皮肉った漫画作品でした。

『サザエさん』よりも『いじわるばあさん』が本命だと長谷川町子本人は生前語っていて、『サザエさん』に適さない強い毒モチーフは『いじわるばあさん』にかき分けていました。

しかし漫画の最大ポイント「画家が亡くなると値上がりする」は現実は逆で、値下がりする場合がほぼ全てです。実態だけでなく、状況証拠もそろっています。個展は作品だけ置くよりも、会場で本人が応対する方がずっと売れる現象もそうです。生きている画家の地位や人柄や人脈などが、大幅に加算されるからです。

死後に値上がりした例は、ゴッホやモディリアニなど歴史名作に集中しています。その一群は生前はゴミクズ画家の扱いで、売れないせいで早死にしていたりします。売れない事実があるから、いじわるばあさんは当然そうした絵に関心はなく、買うわけもありません。

長谷川町子の狙いは、金額換算も楽しみという日本に多い購入動機への皮肉とみえるかも知れません。また、現代版ゴッホやモディリアニの居場所は日本にはないという、裏返しの指摘も読むことができます。
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現代美術はインチキの詐欺ってホント?
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