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ロックギターの演奏テクニックが高いほど、その音楽の芸術性が高いのかという議論があります。ここで前に書いたのは、往年のビッグスターが弾いてみせた動画が思ったほどテクがないから、がっかりした日本人が何人も「これなら自分の方がうまい」と投稿した件でした。

「テクニックがあっても芸術性が高いとはいえない」の命題は、直ちに誤解される議論の代表です。大づかみに受け取れない人が多いし、極論だよそんなのと言う反発もあります。その反発の裏には、テクニックの延長に芸術が付加されるという思い込みがあるのです。

テクニックを極めた者が、その上に積み上げて芸術性を開花させるという誤解は、日本に非常に多くみられます。その誤解は次の言い方に集約されているでしょう。「ピカソの若い頃の写実画はすごかった」。ピカソを巨匠とみなす根拠は、写実の腕だと思っているのです。

実はピカソの写実画は精度が高くもなく、写実画の達人は他に大勢います。このインサイダー情報がないなら、「ピカソは写実が上手だから、わけのわからない抽象画に飛躍できた」と因果を結び付けやすい。具象ができてこそ抽象ができるという、こじつけたコース取りです。

「セザンヌも写実がうまかった」と歴史修正まで起きています。セザンヌは写実の腕が全く不足していて、タブローだけでなくスケッチ画も、たとえば人の手を描くと不器用丸出しです。立体的に空間を描写する技術が、人一倍なかった人です。だからコネ以外全て落選したし。

「テクニックと芸術は別」の命題が出るたびに、「基礎技術があってこそ芸術が成り立つ」を信じる一群がどっと現れてきます。「具象をマスターした者のみ権利を獲得して進める、次なるステップが抽象なのだ」式の、エコール・ド・パリ史だけで考えてしまう失敗です。
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現代美術はインチキの詐欺ってホント?
Posted by現代美術はインチキの詐欺ってホント?