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本書は「芸術は難しい、現代美術はわからない、抽象絵画はちょっと」という国民感情は意外に深刻だとして、わからなくした犯人を指摘して回るヒント集です。今すぐわからせてやろうではなく、新しいヒントで自分なりに考えようとのススメです。

ただし「わかるとは何か」には深入りしていません。「存在とは何か」みたいな哲学論にそれるからです。そこは、誰もが普段使っている言葉「僕はわかる」「理解しているつもり」の用法どおりで足ります。ところが美術ではそこに問題が集まっています。

「僕は絵なんて全然わからない」と言う声が日本に多すぎて、その結果が昔から言われた国内美術市場の小ささでしょう。その自称わからない人の言う「わかる」とは、作品に立派な思想がきっとある前提で、自分はキャッチできないと言っているようなのです。

そこには、芸術は高尚だとの前提があります。正解の真理が作品ごとにあるとして、真理がつかめずに敗れています。それは理解のハードルを自分で高くして、その高さに届かないだけの話です。最初から見上げている心理が悪影響しています。

欧米の多くの市民が美術作品をわかり、買って家に飾る、それは作品に関心を寄せて、エンタメ対象として家に置くだけの話です。作品の高尚な真理をつかんだから買ったのではなく、音楽アルバムを買って家で聞くのと変わりません。日本のように構えが固くないのです。

日本の固い構えは、美術館のWEBデザインに一致しています。正統、厳粛、高尚、神妙な雰囲気です。そんなフォーマルな威厳と気高さは、国内美術の周囲に漂う空気と同じです。この高尚を敬愛するか敬遠するかで、敬遠派が多いほど市場が萎縮するのはわかりやすい。
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現代美術はインチキの詐欺ってホント?
Posted by現代美術はインチキの詐欺ってホント?