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矛盾の語の意味を考えます。何でも貫く鋭いヤリと、何物にも貫かれない丈夫なタテを、同じ商人が売ると、説明が同時に成り立たない不合理です。好例は「丸つぶ模様が一個もない曜変天目茶碗」でした。丸つぶを天目と呼ぶから。「丸い四角」や「黒い白馬」と同じ。

矛盾の語の使い方で、よくある間違いはこうです。「あなたは前に日本はもうだめだと言った、今は日本は伸びると言っている、矛盾するではないか」と。これは一人が警告と激励を、場によって使い分けただけの話です。この手の、活字だけを追いかけた矛盾叩きがとにかく多い。

日本のガソリン価格には、多額のガソリン税がかかっています。その税金分にも消費税がかかるから、禁止された二重課税になる。そんな悪政を「制度の矛盾」と呼ぶべきなのか。まずい制度やずさんなルールを、どれもこれも矛盾と呼ぶのは誤用の飛び火でしょう。

ところで一般通念では、矛盾は悪いことだとされています。矛盾は欠陥の意味であり、異常を正して欠陥を是正するには矛盾をなくすべきだという。解消すべき悪の意味で、矛盾という語が多用されます。

本書では芸術に矛盾はつきものと説きます。矛盾が芸術の豊かさとなった例はゴッホです。最晩年の明るくきらめく原色の絵には不吉さがただよい、暗いパリ時代の絵より死のにおいが強い。「暗い明色」「沈んだにぎやか」「前途なき希望」がゴッホ絵画から伝わります。

同じように「ずれ」「食い違い」も芸術性に関わります。作品にずれや食い違いがあるのは解消したい困りごとではなく、作品にメッセージ性や含みが備わるうれしい成果なのです。逆によどみのない、すっきりと割り切れる健康的な美術だと足りない。
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現代美術はインチキの詐欺ってホント?
Posted by現代美術はインチキの詐欺ってホント?