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本書の第8巻は二度増補し、三度目の題名です。最初は『芸術は手で作らず目で作る』(9編)。『東日本大震災の幽霊と芸術の霊的なもの』(13編)から、『芸術の特徴は表現の裂け目である』(15編)と変えました。

この8巻には美術の入門的な説明は減り、比較的新しい事件に芸術の論理を引っかけた読み物ふう問答が増えています。テレビ番組がつまらない、一夜で白髪になる、STAP細胞はあるのか、ブラックボックス展は問題か、東北タクシー幽霊、ビットコインなど。

伝えたいのは、美術ジャンル外の日常に広く芸術が転がっている事実です。芸術の片鱗は遠い雲の上ではなく普通の暮らしの中に現にあり、普通に皆が接している事実です。美術を見る時にだけ、芸術との関わりが生じるわけではなくて。

日本の大きい問題として、「芸術は凡人が届かない高尚なものである」という気分を、美術関係者が打ち砕かずに、むしろ逆に促進した失敗があります。威光をあおって庶民に見上げさせ、頭を下げさせようと努めてきたのでした。高尚さの保護に皆で力を注いだ。

その結果、多くの国民は「僕は芸術と縁がない人間であり、生涯関わる必要もない」という思いを固めたのです。結果が東京大学関係施設内で起きた、昭和の抽象絵画を何となく捨てた事件でしょう。一人の失敗ではなく、大勢の無関心ですっぽ抜けたかたちです。

譲渡を考えなかった犯人を捜す声もありますが、そこじゃない。国民が芸術との関係を切った我関せずの空気を、業界側が温存させた反省を業界がやらないと。外国は「僕は芸術と縁があり、作品が家に何個もあります」の割合が高く、その差を縮める責務はアート業界側でしょう。
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Posted by現代美術はインチキの詐欺ってホント?